オリビアのミステリー

アルトロン  発売日:94.2.4  機種:SFC

原文のままだと平仮名ばかりで読みづらいことこの上ないので、読みやすいように漢字に変換してあります。
過ぎ去ってしまった事をあれこれと考えるのは、まだ起きていない事について 心配するのと同じくらい意味のない事だともいう。
しかし、気になるのはあの事件は結局、ただの事故だったのかそれとも何者かがわざとやった事だったのかということだ。
それは、夏の事だった。

ある日、水道局のビルで爆発があった。局のビルは崩れ、給水パイプもだめになった。
溜めてあった水がどっと流れ出てしまい、まずいことに軍のレスキューチームの車も水の中へ沈んでしまった。
あまりの事に、さすがのレスキューチームも、ただ呆然と水につかった自分たちのビルを見ている始末であった。

パイプから水がどんどんもれていく。このままでは水不足の夏に備えて、溜めておいた水が無くなってしまう。
極めて浅い所に塩が埋まっているこの地方において、これは大変な事であった。
塩があるために、井戸を掘っても塩水しか得る事が出来ず、従って水は水道局に頼っていたのである。

これは大変だ。
それは分かっていながらも、どうする事も出来ない。
なにしろ水道局のビルは爆発で床がほとんど抜けてしまい、パイプのある所まで行く事が出来ないのだ。

誰もが「何とかしなければならない」と思った。しかし、誰もが「何とかなるだろう」とも思った。
放っておけば大変なことになるかもしれないが、どうしていいか分からないし、だいいち何とかするにしても面倒だ。
とても大変な事だから、誰かが何とかするだろうと思った。
しかし、そんな事を考えている間にも、水は無くなっていってしまう。
私はついに、ビルの壁を登ってパイプのバルブを閉めに行く事にした。

どうにかこうにか、パイプにたどり着いたが、時は既に遅すぎた。水はほとんど無くなっていて、人々に給水するには少なすぎる。
苦労してビルを降り、その事を告げると皆は唖然と呟いた。
「ああ、どうしよう。」
今さら、遅いのである。

水道局無しで、水を手に入れるには、大型給水塔しか無い。
大型給水塔は、地下深くから水を吸い上げるので、真水を得る事ができ、
更に水の出る所を求めて、自分で歩いて行くという、「優れもの」だが、
吸い上げる水が少ないので、一度に配れる水は少なかった。
更に、大型給水塔は水道に比べて、高くつくので、数もそんなにはなかったのである。

そんなわけで、人々は少ない給水塔に列を作り、水をもらっていた。

その年の夏は特に暑く、更に雨もなかなか降らなかった。
水道局の水はあっという間に底をついてしまった。
給水塔があれば、少しながら水が手に入るので、我慢すればどうにかなり、命のキケンは無かった。
しかし、山では大型給水塔は入ってくる事が出来ず、水道に頼っていたので大変であった。
まあ、このあたりで、わざわざ山に住む者はおらず、昔からそこに住んでいる人々は、ため池があるので問題は無かった。

それでも、つい近頃山に移り住み、ため池も作らずに水道に頼っていた者がいた。
帝国研究都市である。

研究都市は帝政に反対する過激派のテロを避けるために、山に移ったばかりであ った。
さらに、研究都市には暑さを避けるために来ていた、皇帝の若い娘もいた。
研究都市で作られた天気予想システムを使ってみても、ほら、しばらく雨は降りそうも無い。

さて、水道局のビルから降りたあと、私が何をしていたかというと、近くのサーカスでアルバイトをしていた。
水道局の壁を登っていたのが気に入ったらしく、スカウトされたのだが、する事はもっぱら水汲みであった。
まあ、別にする事があるじゃ無し、そんなに不満ではなかった。

とある噂を聞いた。
皇帝の娘が研究都市で苦しんでいるという。
皇帝の、娘なんだから水ぐらい何とでもなりそうなもんだが、皇帝が人々から取 り上げた水を送ろうとしても、
「人を苦しめて手に入れたような水は飲めません」と断ったとか。
もともとあの2人は仲が悪いと聞く。ほら、皇帝があの通り過激で、娘は娘で静 かながら気は強いから。

で、私は考えた。
別に皇帝の娘に借りがあるわけではないが、苦しんでいる女の子を見捨てるわけにはいかない。
かといって、私は他の人まで養える水を持っているわけではない。
では、どうするか?

ふと、思いついた。そうだ、水がいくらでもある所へ行けばよい。
だが、どうやって行けばよいのか?
そうだ!サーカスで使う大砲で撃ってもらおうではないか!
そして、そこで給水車に乗って帰ってくる、そして人々に水を配り、皇帝の娘に水を渡す、
皇帝の娘に誉めてもらう、なんて素晴らしい考えなのだろうか!

メンバーの見守る中、私は大砲で打ち上げられた。高く、速く、そして遠くへ。
見慣れた所は瞬くうちに遠ざかり、チラリと山の研究都市が見えた気もするが、気のせいだったのかもしれない。
更に遠くへ、少なくとも国境は越えないと水は手に入りにくい。
それにしても、その頃はまだ飛行機が無かったのでよかったが、今、こんな事をしようものなら対空砲で打ち落とされかねない。
よいこの皆はマネしちゃダメだぞ。

さて、国境の印を飛び越えたあたりから困ってきた。スピードが落ちない。
それどころか空気との摩擦が少なくなってきたので、余計にスピードが出てきた気さえする。
学者ツォルコフスキー(注1)によると、空の上の方は空気が薄く、更に上がっていくと空気は無くなってしまうという。

困った。

まずい。
暗くなってきた。
苦しいし。
どうしよう。

いて、なんかにぶつかった。

それが月であった。

天の助けか地の情けか、その頃は月も、空気も水もあった。
たた、月人はいなかった。いや、正しくは、昔はいたらしいのだが、もういないようであった。
綺麗に飾られた建物や、立派な道なども、なんとなくわびしささえ、伴なっていた。
月の人々はどこへ行ってしまったのか、なぜ、月を見捨てたのかは、わからない。
ただ、私にはそういったことに興味はあっても、調べている暇は無かった。
私は水を汲みに来ただけなのだから。

アトミック水汲み機を見つけた私は、水汲みを任せて、自分は帰る方法を探す事にした。
なにしろ月に大砲は、無い。

さて、いろいろ探した末にやっと使えそうな物を見つけた。
見るだけで、空を飛ぶための物であることは分かる。
なにしろ、鳥の形をしているのだ。これが飛ぶための物でなくして、なんであろうか?
ただし、学者モジャイスキー(注2)が作った飛行機とは違って、羽ばたくようになっているのが特徴であった。
なお、この機械はナスカ地方(注3)にいくとでっかいイラストがあるので、暇な人は見に行ってみるとよい。
だいぶデフォルメされているが、イメージはつかめるでしょう。
誰が描いたか知らないが。

しばらくパタパタと飛び回った頃には、水汲みも終わっていた。とりあえずは少しあればいい。
これはこれで皇帝の娘に上げちゃって、改めて水道パイプでも引けばいいさ。
月に水があるなんて誰も知らないだろうな。
さ、それではいそいそと、帰りますか。

パタパタと帰ろうと思ったが、月から出るだけでかなりの燃料のエーテル(注4)を使ってしまったらしい。
羽ばたきが遅くなってきてしまった。
困った。
と、近くに人工衛星があるでないの。
おそらく月の人々が昔上げた物であろう。どれくらい昔の物か、はっきりはしないが未だに動いているというのは驚きだ。
でも、どうせ使う人もいないことだろうから、この人工衛星から燃料をもらってしまおう。
飛行機械から出る空気を吸いながら人工衛星の燃料を飛行機械に移し変える。
体が動いてやりにくい。
さて、どうにかこうにか燃料移し変えも終えて、地球を目指す。

さあ、地球に帰って来た。地球に着くと体が重い。
とりあえず、するべきことは研究都市まで行く事。
そして皇帝の娘に水を渡す事、そして皇帝の娘を通じて水道局に月までの水道工事を頼む事だ。
飛行機械の燃料はまだ大丈夫。今度は研究都市めがけてパタパタと飛ぶ。
研究都市は軍に守られていたが、皇帝の娘に水を届けに来たと言うだけで案外簡単に入れてもらえた。
なにしろ、皇帝に対する過激派というのは結構いるのだが、その娘に対する過激派というのはまず、いない。
娘は温和で、過激な皇帝が退位したあと、温和な彼女が帝位を継いでくれれば、何もこちらも危ない思いをして過激なことをする事は無い。

そんなこんなで皇帝の娘に合う事が出来た。
思っていたよりもずっと小柄で、華奢な感じさえする。
そんなに私と、年が違うわけじゃなく、ただの女の子なのだから、当然と言えば当然だが、何となく、何となく。

皇帝の娘は、私のビル登りから、月から帰るまでの話を楽しそうに聞きながら水を飲んでいた。

だが、事はそんなにうまくは運ばなかったのである。

その翌日、私は軍に捕まえられ、娘がひどく、苦しみだしたと言う事を聞いた。
水が悪かったわけではない。その中に謎の生命体が入っていたのだ。
研究都市の研究によると、その生命体は人間の中に住み、やがてその人間を殺して飛び立つとい う生き物らしい。
もしかすると月の人々が月を見捨てたのはこいつのせいなのかも、知れない。

そんなことはどうでもよい。
何で私が呼ばれたかというと、聞くところによると、ピラウトラというらしいこの生命体を持ってきたのが私であるために、皇帝の娘は
私が「軽く、冒険の1つや2つをこなして」どうにかしてくれると言ったらしい。

こうなっては知らないふりをしてごまかす訳にもいかない。
私はとりあえず、薬学に優れた東洋へ出掛けて見る事にした。

さて、東洋は遠い。
ウラルからチャリヤビンスクを抜け、シベリヤを駆け抜けて、地球の屋根(注5)と言われる険しい山々を越えてやっと着いた。
東洋の美しさは旅の疲れを一気に吹き飛ばした。
海のように広い川といい、無限に続くようなサイクリングコース(注6)といい、すごいのである。

いやはや、東洋はすごい所である。
薬さえも機械で作ってしてしまうのである。
何でも人が多いので、薬屋がいちいち作っているのでは間に合わないそうだ。
機械が薬を作っているというと、「何かの弾みで変な薬が出来たりしないかしら?」 と、気になる人もいるかもしれないが、大丈夫。
ここの人の話によると、「アイヤー、機械、間違え、無いアルヨ」との事である。
なんかよく分からないが頼もしいではないか。

一体どういう事をするのか分からない機械が多いが、何となくハイテクである。

ところが、ここでは謎の生命体、ピラウトラに対抗する薬は作っていないそうである。
まあ、謎の生命体と言うからには、簡単にその対抗薬が手に入るとは思っていなかったが、
ここで作ってるのは打ち身・捻挫によく効く飲み薬だけだそうである。
それじゃ困るから、何とかして謎の生命体に対抗する薬を作ってくれと言ったら、
「アイヤー、それなら隣村のハオ先生が、薬何でも得意アルヨ」と、教えてくれた。
東洋の人はみんな親切である。

さあ、細かいところは省くがハオ先生の家までやって来た。
とにかく薬を作ってもらおうと、先生を呼ぶ。でも返事が無い。
もう一度、呼ぶ。やっぱり返事が無い。
どうしよう。いないのだろうか。
だったら帰りを待つだけだ。洗濯が干してあるからそんなに遠くへは、行ってないだろう。

しかし、その頃ハオ先生の家では縛られた学生が助けを求めて、這っていたのであった。

門の所で待っていたら、いきなり縛られたヤツが、転がって来て驚いた。
彼の話を聞いてみるとこういう事だ。
なんでも、前の日の晩、この地方を荒らし回るバンディッツがハオ先生をさらって行ってしまったという事である。
ハオ先生の薬は何にでもよく効く。
その先生に毒を作ってもらい、逆らうものを殺してしまおうという考えだ。
さあ、どうしよう。

どうしようと、言ったところで、する事は大体決まっているようなものである。
実は、こんな事もあろうかと飛行機械を列車で運んでいたのだ。
私は急いで飛行機械を取りに行くと、そのまま乗り込んで一気に飛び上がった。
なにしろ月から乗って来た位だ、大分慣れてきた。

しばらく探し回り、いよいよバンディッツのアジトを見つけた。
私は低く構えてリーダーめがけて真っ直ぐ突っ込む。
しかし、バンディッツも竹ヤリを投げてくる。激しい戦いとなった。

勝った。
激しい竹ヤリの嵐を掻い潜り、リーダーに脅されているハオ先生を一気にかっさらってやった。
まあ、バンディッツ達をやっつけることは出来なかったが、暇が無いのでしょうがない。

帰りも後ろから激しく飛んでくる竹ヤリをあるいはかわし、あるいは叩き落しながら帰ってきた。

とにかく、ハオ先生は驚いてはいたものの、元気そうでよかった。
飛行機械の仕組みなどを、知りたがっていたが、残念ながら私も分かってはいない。

先生は何でもするとまで言っていたので、今までの事を話し、謎の生命体ピラウトラの対抗薬を作ってもらうことにした。

先生は、そんな事なら簡単ヨ、とシャカシャカと薬を作ってくれた。

先生に作ってもらった薬を手に持ち、先生と学生の見送りを受けて列車へ急いだ。
飛行機械を乗せて自分も飛び乗る。
さあ、地球の屋根を越え、シベリヤを駆け抜け、ウラルを越えてまっしぐら。

しかし、やっと帰って驚いた。
人々は娘が死んだ話をしているではないか。
慌てて近くの人に聞いてみると、皇帝の娘はもう今日一杯もたないだろうという事であった。

困った。

やむを得ず、馬を一匹借りて研究都市へ走る事にする。
無理に頼んで、一番速い馬を借りた。
が、さすが、一番速い馬である。乗る前に走って行ってしまった。速いのなんの、追っかけるのが大変だ。
馬は帝国の新兵器発表会の会場を突っ切って走っていく。
帝国の偉い奴らが大勢来ているが、皇帝だけは、いなかった。
軍の人々は、新兵器のスピードが馬とあんまり変わんないのにがっかりしたとか、そんな事を、後で聞いた。

何てことだ。追いかけてるうちに研究都市に着いてしまった。
何のために馬を借りたんか、よう分からん。

皇帝の娘に会うのは気が重かった。なにしろ、毒を飲ませたのが自分だからだ。
もちろん、だからといって会わないわけにはいかない。

研究都市では私を待っていたようである。
私が着くや否や、真っ直ぐ皇帝の娘の所へ案内された。

皇帝の娘は思いのほか、しっかりしていた。
初めに会ったときと、全く変わらぬしっかりとした姿で私を待っていた。

しかし、私を見てもあまり喋ろうとせず、喋ってもひどく話が食い違い、それも、途切れがちな所を見ると、かなりまいっていたらしい。

「これで駄目なら、切るしかないね。」
薬が効くのを待つ間ナースを手伝っていると、彼女は静かに言った。

ルート1…いわゆるバッドエンド。時間がかかりすぎるとこっちへ来ます(詳細は不明)。

だが、間に合わなかった。

皇帝は娘の死を、嘆き、その嘆きは人々への逆恨みとなった。

温和な娘が死に、帝政に望みを無くした人々もまた、皇帝への逆恨みを募らせた。

2つの逆恨みのぶつかり合いは次第にエスカレートしていった。

やがて皇帝は軍を動員し、過激派との泥沼の戦いに入る。

私は一人、捕らわれの身。
ルート2…いわゆるグッドエンド。

さて、ハオ先生の薬はよく効いた。
ピラウトラは死に、娘はしばらく後には元気な姿を人々の前に見せた。
人々はあらゆる意味で、喜んだ。
温和な娘が過激な皇帝をたしなめると考え、喜んだ者。
回復を祝うパーティーでも開かれる事を期待し、喜んだ者。
そしておそらくもっとも多かったのは、若い娘が死なずにすんだという事、それだけで喜んだ者。

しかし、一番娘の回復を喜んだのは皇帝である。自分の娘が助かったのだから当然であろう。
皇帝は娘の回復を喜ぶ人々を見て、何か感じるものがあったのか、そのまま退位した。
そして娘は女帝となった。

女帝さまは、わざわざ私に会いに来た。
私も何となく、うれしい。
別に一つも、徳はしてないのだが。
●注釈
注1 学者ツォルコフスキー…コンスタンチン=エドゥアルドヴィッチ=ツォルコフスキー(1857-1935)
               ロシアの物理学者。1903年からロケット全般にわたる論文を発表し始める。
               人工衛星や宇宙服、宇宙ステーションなど、人が宇宙進出するための様々な可能性について、初めて科学的角度から提案した、宇宙科学の父。
注2 学者モジャイスキー…アレクサンドル・フェドロビッチ・モジャイスキー(1825-1890)
                ロシア海軍士官。1884年に、有人動力機として初めて、斜面を下って加速した後の跳躍飛行を行った。
                1881年に「空中飛行装置」の特許を所得。
注3 ナスカ地方…ペルー南部の乾燥地帯。西暦100年〜800年頃にナスカ文明が栄える。
          巨大な「地上絵」はあまりにも有名。
注4 エーテル…@「宇宙に満ちており、光を波動として伝える媒質」と信じられていた物質。
          1981年にマイケルソン=モーレーの実験によって否定された、事になっている。
          多分、魔装機神の「魔法剣エーテルちゃぶ台がえし」と関係ある。
        Aカエルの解剖実験や、手術に用いられる麻酔。
         どちらにせよ、燃料になるのだろうか…。
注5 地球の屋根…ヒマラヤ山脈やパミール高原など、ネパール周辺の山地の呼称。
注6 無限に続くようなサイクリングコース…多分「万里の長城」の事です。
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